東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2235号 判決
二 進んで、控訴人主張の表見代理の成否につき順次判断する。
(一) 民法第一〇九条による表見代理について。
前記手形取引並に根抵当権設定契約証(乙第一号証)は、訴外望月久作が融資を受けようとした清水銀行と、取りかわすべきものとした契約書であることが、その記載自体に徴して明白であり、前記認定事実に原審証人望月久作の証言および原審における原審脱退被告望月きん、原審における被控訴人各本人尋問の結果をあわせれば、被控訴人およびきんは、久作の依頼により同人を主債務者とする右銀行からの借入金債務につき連帯保証並びに本件物件につき根抵当権の設定を承諾し、その趣旨のもとに右契約書に署名、押印してこれを久作に交付したのであり、前掲委任状、印鑑証明書、本件物件の権利証等は、被控訴人らにおいて右契約書と一体となるべきものとして久作を通じて右銀行静岡駅南支店に差入れたものであることが認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。
右事実によれば、被控訴人らは、久作の右銀行借入れの債務の担保のために右委任状、印鑑証明書、権利証等の各書類を差入れの宛先きを右銀行に限定して同人に交付したのであることが明らかであり、久作に対する右書類の交付により、もし右銀行の借入れが成就しなかったときは、それ以外の第三者から借入れをはかるために右各書類を利用することをあらかじめ久作に対して許諾する旨を表示したものとは、とうてい解することができない。右委任状の権利者欄等が空白であったということも、またこれらの書類が前掲手形取引並びに根抵当権設定契約証から分離して利用可能な状態に置かれていたということも、右判定を左右するに足りない。
従って、被控訴人らが、包括的に第三者に対して、久作に本件物件につき抵当権設定の代理権を付与した旨を表示したものとしこれを前提として民法第一〇九条による表見代理の適用があるという控訴人の主張は、理由のないことが明らかである。
(二) 民法第一一〇条による表見代理について。
前記一および二・(一)掲記の諸事実によれば、被控訴人らは久作の清水銀行に対する借入金債務につき連帯保証を承諾し、かつ右債務の担保のため本件物件につき根抵当権の設定の承諾をしたところ前記手形取引並に根抵当権設定契約証とともに内容部分白紙の登記申請委任状に被控訴人らがそれぞれ署名押印したものと被控訴人らの印鑑証明書および本件物件の権利証を久作に交付したのであったが、右手形取引並に根抵当権設定契約証に徴すれば、元本極度額および遅延損害金の記載がなく、かつ同契約証添付の不動産目録にも物件の記載がなく、更に、原審証人堀池和男の証言(第一、二回)によれば、久作は、清水銀行静岡駅南支店に対する融資申込および右手形取引並に根抵当権設定契約証、被控訴人らの右登記申請委任状等右掲記の各書類の提出にあたり、本件物件についての根抵当権の設定による担保の差入れに関して、終始被控訴人らの代理人として行動し、右銀行側の者として折衝にあたった右支店長代理堀池和男も久作を被控訴人らの代理人として取り扱っていたことが認定でき、右認定を妨げる証拠はない。
かような諸事情をあわせれば、久作は、右根抵当権の設定につき単なる被控訴人らの意思を、伝達もしくは表示する機関(使者)にとどまるものではなく、右根抵当権設定登記申請の委任を含め、清水銀行右支店との関係に関する限り被控訴人ら各所有の本件物件につき根抵当権設定のための諸手続を完了する代理権限を被控訴人から付与されていたものと認定するのが相当である。
しかして、久作は、清水銀行右支店からの融資を得られなかったため、控訴人に懇願した結果、昭和四〇年一二月三〇日控訴人から金一〇〇万円の貸与を受け、同時に被控訴人らの代理人として本件物件につき控訴人の右貸金債権担保のため抵当権の設定を承諾したのであるから、その抵当権設定は、久作が被控訴人らから付与された右代理権を踰越した行為であることが明らかである。
(浅沼 加藤 間中)